#3 ハウス・オブ・ブランドの流行 — 次のユニリーバは誰か?
コンテンツ型ブランドはリテール業界の「ロングテール」を勝ち取る、VC調達をしなかったD2Cブランドの今、麻雀ブランドが批判された理由
『CEREAL TALK』は、米国の次世代ブランドや小売、ニューラグジュアリーにフォーカスしたメディアです。毎週月曜日の朝にニュースレターをお届けしています🥣 by 沼田 雄二朗(@Numauer), 宮武徹郎(@tmiyatake1) and 草野美木(@mikikusano)
🥣Briefing
ハウス・オブ・ブランドの流行 — 次のユニリーバは誰か?
次のコカ・コーラやP&Gになるために、数年前からD2Cブランドがホールディングス化し、複数のブランドを運営するポートフォリオ型の会社を設立するのが流行し始めた。いわゆる「ハウス・オブ・ブランド」ビジネスで最近話題になっているのは、有名クリエイティブエージェンシーのGin Laneがスタートさせた「Pattern」や元GlossierのCOOが立ち上げた「Arfa」などが有名だ。一方健康志向の消費者をターゲットにした「Dirty Lemon」など複数の飲料ブランド運営している「Iris Nova」は、複数のブランドを持っていることでLTVを伸ばす作戦を考えていて、裏ではIris Novaポートフォリオは独自SMS配信プラットフォームを活用させている。Arfaも同じくユーザーに対して初期からプロダクトカテゴリーを拡大してLTVを伸ばす戦略を取っている。しかし、この動きはうまくいかないという声も多い。投資型クラウドファンディング「CircleUp」のマネージングディレクターのカレン・ハウランドは、ユニットエコノミクスが成立してなく、赤字事業のブランドをかき合わせてもプラスにならない場合もある。複数ブランドを持つとマーケティングとR&D(プロダクト開発)の予算分けの判断が難しくなる「P&G問題」に発展してしまうのではないかと語る。
コンテンツ型ブランドはリテール業界の「ロングテール」を勝ち取る
2008年、ベンジャミン・クライマーは趣味で好きだった腕時計ブログ「Hodinkee」スタートさせた。そして2020年12月、TCG(The Chernin Groupの関連会社)、LVMH、有名アメフト選手トム・ブレイディやグラミー賞7冠の歌手ジョン・メイヤーなどから$40Mの資金調達を発表。ブログの「Hodinkee」は毎月130万人の訪問者を記録し、サイトで販売する時計だけで2020年は$25Mの売上を達成。これほど人気なのは、若者が喜ぶブランドや時計のバックストーリーと時計ファンが満足するテクニカルな情報を提供していることに理由がある。Hodinkeeからすると、ブランドが提供する最も重要なものとはコンテンツ。「編集者、写真家、映像作家を採用して、クオリティの高いコンテンツを作りたい。『未来はコンテンツが全て』。」とクライマーは語る。
リテール業界では「体験」を重要視しているが、コンテンツもその体験のひとつ。多くのブランドは未だに広告だけでブランドストーリーを表現しようとしているが、Hodinkeeの成長を見ると、コンテンツはブランドのコアバリューをサポートするものではなく、ブランドのコアバリューそのものになり得ることを証明している。今ではユーザーは類似商品を簡単に手に入れられるのと、デジタル広告のコストが高まっている中、ユーザー獲得とリテンションの課題を解決できるのはコンテンツかもしれない。ブランドはAmazonと対抗したくなければ、よりユーザーと深い関係性作りが必要となる。そのためにコンテンツ制作やコミュニティ構築の需要が高まるだろう。
Why Editorial Brands Will Dominate Retail’s ‘Long Tale’ | Retail Prophet, Opinion | BoF
VC調達をしないD2Cブランドの今
人気ブランドのSupremeやLululemonは、VCから調達していない会社だったということご存知だろうか。昔のブランドだからと言う人もいるかもしれないが、Lululemonが設立された1998年はドットコムバブル時期で、Supremeも多くのVCから資金調達のオファーを受けたのは間違いない。ここで言えるのは、ブランドビルディングをあえてゆっくりと作り上げることが、長期的プロダクトブランドを作ることに繋がるのかもしれないということ。VC調達を受けているD2C企業はブランドビルディングのプロセスを短期スパンで作ろうとしているが、それは実際はできない。結局シリコンバレー的な「ブリッツスケーリング(成長にひたすら集中する戦略)」は、代表的なブランドを作るためには良い戦略ではない。ブランドはお金で買えるものではなく、積み重ねて得るものである。VC調達したブランドは急成長が求められ、広告を活用してユーザー獲得にフォーカスするケースが多い。結果として売上は成長するかもしれないが、ユーザーからの長期的ロイヤリティを得ているかが定かではない。逆に、広告でプロダクトを購入すると説得されたユーザーは口コミや自らブランドを見つけるよりブランドとの関係性は薄いため、長期的な関係性に繋がらない可能性の方が高い。もちろん例外はあるが、大型調達をして急成長をするよりも、どうオーガニックでユーザーがブランドを見つけて成長できるかを考えるのが長期的にブランドとして成功する道のりなのかもしれない。
毎週木曜21時頃@ClubhouseでD2CやリテールについてCereal Talkメンバーとゲストを囲んでトークをしています。今週は、2月18日(木)に開催予定です、ぜひ遊びに来てください!
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文化の盗用と尊重、麻雀ブランドが批判された理由
アメリカで物議を醸すD2Cブランドが発売された。麻雀のD2Cブランド「The Mahjong Line」は、白人女性3名が創業し、これまでの中国の伝統的なデザインから彼らが言う”リフレッシュ”したデザインとしてプロダクトをローンチ。プロダクトのデザインは中国からの影響ではなく、白人文化のスカンジナビア、スペイン、デンマークなどのインスパイアが感じられ、サイトでは一切中国について話は何もなかった。また、$425と異常に高額な値段で売られ、牌には間違っている漢字が記されており、中国文化の尊重なくして作られたと多くの人から批判の声が上がり、最終的に彼らは謝罪コメントを発表。
Editor's Note
重要なのは、文化の背景にいる人々にリスペクトがあるかどうか、そして彼らにプラスになるかどうかを考える必要があると思う。今日、文化間のコミュニケーションやプロダクト開発には、多様性のあるディスカッションと十分なリサーチは非常に大切だなと思う出来事だと思いました。一方で最近では、アジア系の創業者が作ったブランドの活躍も注目されている。「Omsom」や「immi」など多くの会社の創業者がアジア系で文化を理解しているため、文脈とブランドストーリーを伝えることができる。今後もダイバーシティのあるディスカッションや文脈を理解したブランドが生まれることに期待です。———草野
📰News
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