🥣 Briefing
広告効果が明暗を分けるShopifyとAmazonの今
個人が手掛けるニュースレターの先駆けである『Stratechery』で先月末取り上げられた「Shopifyの進化」から、Shopifyの動向と広告効果の関係について紹介したい。
Appleのプライバシー保護強化による影響
AppleがiOS14から導入を決めたATT(App Tracking Transparency)。これにより、コンバージョン分析にあたって購入者の行動データを取得する際、ユーザーへの許諾が必要となった。「あなたの行動履歴を使ってもいいですか?」と聞かれて「はい、いいですよ」と素直に答える人が少ないのは想像に難くない。データ収集の難易度は一気に上った。この影響をもろに受けたのがFacebook(現Meta)の広告ビジネスで、行動データの分析によるターゲティングを得意としていた彼らを支えていた地盤が崩れ始めている。
FacebookとShopifyが共倒れに
これによりFacebook広告を窓口としていた多くのECブランドが、新規の獲得に苦心する結果となったのは言うまでもないが、それはプラットフォームであるShopifyも同じだった。Shopify App Storeをはじめ、Shop PayやShopify Fulfillment Networkといった周辺機能の統合を通して、着々とEC基盤としての地位を築いてきた同社だが、以前から、集客をFacebook広告に丸投げであったことを一部から指摘されていた。ATT導入をきっかけに株価を落としたFacebookと、ほぼ同タイミングでShopify株も同じ軌跡を描いたのはこれが一因かと思われる。
かたや好調のAmazon広告事業
一方でATT導入の悪影響を免れたのが、言わずとしれたオンラインショッピング最大手Amazonの広告事業だ。ATTが規制したのは第三者を介した横断的なデータ共有であっため、大規模なエコシステムをAmazon.comという単一のマーケット内に持つ同社には影響がなかったのだ。Facebook広告が振るわず、Amazonへ商品と広告をシフトするECブランドが増えているのも、ごく自然な反応といえる。これと同じトリックで、多数の顧客を抱えている大手企業はデータサンプルを単独でも集め得るが、Shopifyの主なパートナーである小規模な販売店はそうはいかない。
満を持してShopify広告サービス開始か
集客という弱点を突かれ、加盟店をライバルに奪われかねない現状を受けてか、昨年夏、Shopifyは招待者限定のプレゼンでShopify Audiencesという新コンセプトを紹介した。これは、170万の加盟店から集めた顧客データを匿名化し蓄積、ある商品を好みそうな消費者の性別、年齢などの諸要素を特定するというもの。加盟店は、Facebook、Snap、Twitter、およびその他プラットフォーム上でこの消費者像に基づいたターゲティング広告を出すことができる。依然、ATTの規制でiosユーザーには適用できないという課題は払拭されていないようだが、顧客獲得におけるShopifyの第一歩と言える。
EC需要の追い風を受け急成長したShopifyは、広告効果の低減をきっかけに冬の時代を迎えている。この予期せぬ出来事は、後に語られるかもしれない彼らの成功ストーリーにおける転換点となるのか。Shopifyは今岐路に立たされている。
ブランドが「会員制モデル」に賭ける想いと理由
『BoF』によると、ファッション業界における会員制ビジネスモデルは、顧客とのエンゲージメントを深め、サステナビリティの課題に取り組む方法として注目を集めている。アウトドアウェアの「Early Majority」はこの1年間、商品を1つも売らずにコミュニティを育ててきたという。先週一般販売が開始されたが、ブランドへの新規参入者は生涯メンバーシップに358ドルの有料会員になるか、一つ一つの商品の価格に60%のプレミアムを支払うかを選択できる。立ち上げたばかりのブランドとしては大胆な提案だが、利益を追求するだけでなく、従来からあるロイヤルティ戦略によるエンゲージメントとデータ収集のメリットを活用してサステナビリティに関する課題を解決しようとしている。
彼らは有料会員の基盤を構築することで、可能な限り多くの用途に対応する最少数の製品を作るという目的を達成することができ、当初からある程度の財務的安定性を確保し、ブランドとその目指すものを熟知したコミュニティ、数量管理、廃棄物の削減、製品が本当に顧客のニーズを満たしているかどうかの貴重な情報などを提供できると考えているそう。長期的には、会員が使用済みの製品を下取りし、ブランドが再販やリサイクルを行えるような年間契約制度を導入することを目標としている。
無限に続くコレクションで過剰な消費を促すのではなく、時代を超えたコアな商品群だけをコミュニティ内で販売することで、ブランドは廃棄物や過剰生産を削減するのに役立つ貴重な洞察を生み出すことができる。会員制モデルは、ブランドと顧客の関係を「単にモノを単位で売る」という関係から脱却させ、収益の伸びを生産から切り離す方法のひとつになるかもしれない。ファッションの影響と消費に関する会話が加速したパンデミック以降、「ブランドの在り方」はどのような方法で世界に良い循環をもたらせることができるのか、あるいはどうやって私たちの人生をより豊かなものにするのか、という問いかけがキーとなりそう。
🎙 Podcast
メタバースファッションウィーク、実際どうだった?
3月に開催された「メタバースファッションウィーク」の実際のリアクションはどうだったの?という話や、デュア・リパの「フューチャーノスタルジア」の写真を撮った写真家ヒューゴ・コンテが作るバーチャル世界、Shopfiyがインフルエンサーマーケティングツール「Dovetale」を買収!など気になるニュースを紹介しました。
✏️ View
ファッションスクールの学生は3Dデザインを勉強している
ファッション業界がデジタル化されてバーチャル世界が人気になる中、ファッションを教える大学などでは学生に新しいデザイン技術の教育を強化し始めている。『BoF』によると、ファッションスクールのトップ8校のうちまだ5校しか3Dデザインをコアカリキュラムに含めてないが、徐々にこのトレンドが普及しているという。ニューヨークのParsonsは全生徒にClo3Dという3Dデザインツールを教えていて、パリのInstitut Français de la Modeもデザイン・パターンメイキングの学生にClo3Dを教えている。デジタルファッションの授業が増えているのは、企業側での需要が上がっているから。AdidasやTommy Hilfigerでは既に3Dデザインをかなり活用していて、今後はECやSNSでも3Dアセットを活用するブランドが増えると見込まれている。レイベンズボーン大学では2021年からデジタルアバターのモデリング、バーチャルアパレルのデザイン、そしてVR環境の制作も教えている。レイベンズボーン大学を卒業した学生は最近だとバーチャルファッション企業のDressXなどでバーチャルアパレルを販売している。
Editor's View
昔はプログラミング、最近だと動画編集やコンテンツ制作、そして今後は3Dアセットやバーチャル世界を作れる人材の需要が上がる。今後どのブランドもフィジカルな商品だけではなく、バーチャル世界で商品を見せたり、3Dアセットを活用してARで試着したり、場合によってはRTFKTみたいにバーチャルブランドとしてスタートする企業も増えるはず。それが今実現できない大きな理由は人材不足。Unreal Engine、Unityを触れる人は大体ゲーム会社に行くケースが多い。今後はEC企業やファッションブランドが採用するはずなので、この領域に興味がある学生などいれば、Unreal Engine、Unity、Mayaなど3Dアセットの制作技術を学ぶのをオススメします。ー宮武
📰 News
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CEREAL TALK(@cerealtalkjp)Yujiro Numata(@Numauer) Tetsuro Miyatake(@tmiyatake1) Miki Kusano(@mikikusano)