#70 メタバースのリアリティを支える嗅覚テクノロジーとは
ブランドをローカルからグローバルにする方法、Spiber x PANGAIAコラボ、ヴィクトリア・シークレットの変わる戦略、足りなかったはずが?過剰在庫に困る大手小売、色を独占しようとするファッション企業
🥣 Briefing
メタバースのリアリティを支える嗅覚テクノロジーとは
Nikeの買収や村上隆コラボのCloneXなど昨今話題の尽きない、CEREAL TALKではおなじみのデジタルファッションブランド「RTFKT」が、高級香水ブランドのByredoと共同開発するメタバース用フレグランスの構想を発表した。これに関連して今週は、仮想現実メタバースにおける嗅覚へのアプローチを紹介したい。
人の記憶や認知と嗅覚情報は深く結びついている、それゆえバーチャル世界への没入感を演出するうえで、匂い香りを重要な要素と考える企業は少なくない。例えば、米国はバーモント州に拠点を置くOVR Technologyは、VRヘッドセットに後付できる嗅覚再現デバイス「ION(イオン)」を開発。カートリッジにセットされた9種の成分の組み合わせを変え、数百種類あまりの香りを生成する事ができる。現在、この技術は医療の現場で試験利用されており、2023年の一般消費者向けの販売を見据えている。
一方、これまでも嗅覚に着目した類似企業が取り沙汰されることは多々あったが、劇的な普及に至った例が未だないのも事実だ。はたして「リアル」であることの条件とはなんなのだろうか。現実をバーチャルに置き換える上で、これまで当たり前に感じていた物事を再定義するこうしたプロセスが面白い。
ブランドをローカルからグローバルにする方法
2019年以降、ウィメンズウェアで注目を集めた「FARM Rio」が米国での売上をゼロから5,000万ドルにまで成長させ、現在はヨーロッパ展開も視野に入れている。『BoF』では、店舗、Eコマース、そして特に強固な卸売ネットワークを含む多方面のチャネル戦略が成功要因だったと伝えている。
進出する前に、FARM Rioは顧客層が大きく異なることや、米国の既存ブランドとの激しい競争を考慮しなければならなかったため、実店舗と卸売という古くからの小売戦略で、注目を集めることにした。彼らにとって、卸売は安定したキャッシュフローの源としてだけでなく、高級デパートのニーマン・マーカスのような小売店は、何百万人もの消費者を対象にしているため、無料の広告を貼る手段としても機能していた。しかし、卸売だけでは十分ではなく、2010年代、多くの業者がバーニーズやロード&テイラーに資金を握られ、新しいコレクションを作れずに苦しんでいた。だからこそ、ブランド認知度向上の取り組みにおいて、直営店が重要な役割を担っていた。実際、ニーマン・マーカスのバイヤーは、FARM Rioの店の前を通りかかり、鮮やかな装飾に引き込まれて、ブランドを発見したという。その後、卸売と小売に加え、Adidasと継続的なパートナーシップを結んでコラボしたり、インフルエンサーマーケティングに投資、InstagramやGoogleでの広告も一部行うようになった。FARM Rioには、25年にわたる経験と業界の裏表に関する知識というアドバンテージがあった。デジタルネイティブの新興企業が、SNSで直接顧客にアプローチするためにすべてを投資するのとは異なり、FARM Rioは、卸売もビジネスモデルの一部でなければならないことを知っていたからこそできた動き方。現在、米国の売上高の約50パーセントはEコマース。卸売りが45%、残りを店舗が占めている。
重要なのはマルチチャネルでのアプローチ。現代の「認知」の入り口はSNSだと思われがちだが、オンラインとオフラインとで人との接点をつくるバランスが大事なのかもしれない。
🎙 Podcast
Spiber x PANGAIA、ヴィクトリア・シークレットの変わる戦略、足りなかったはずが?過剰在庫に困る大手小売
今回は、環境に配慮した素材でアパレルを展開するPANGAIAとスパイバーによる人工タンパク質「ブリュード・プロテイン素材」を使ったコラボについて、下着ブランドのヴィクトリアシークレットが新しいブランドを立ち上げ、キュレーションサイトをオープンなど話しました。そして、CEREAL TALKでもよく取り上げている在庫が足りなかった問題が今大手小売は過剰在庫に困っている?など紹介しました。
✏️ View
色を独占しようとするファッション企業
ファッションブランドValentinoの2022年秋コレクションを披露するショーはピンク色塗れだった。ランウェイ、壁紙、アイシャドウ、アンバサダーのZendayaさんまで同じピンク色で統一していた。ValentiinoのクリエイティブディレクターのPierpaolo Piccioli氏が選んだ「Valentino Pink PP」と名付けた色は今ではブランドのサイトやSNSの色んなところで登場している中で、多くのファッションブランドは似た形で自社の色をユーザーに根付かせようとしている。ストリートウェアブランドのSupremeの赤色やGlossierのミレニアルピンクから歴史に刻んだ色合いだとBottega Venetaの緑色、Tiffanyの水色、Hermesのオレンジ色など。ファッション企業は色を活用して遠くからでも認知される、ロゴの代理役として勤める。最近立ち上がったNFL選手のTom Bradyさんが率いるアスレチックブランドのBradyではPantoneと提携して「Brady Blue」と特別の色まで作った。
Editor's View
過去のCEREAL TALKポッドキャストでTiffanyの新しいキャンペーンについて話したときに、Tiffanyが強調したTiffany Blueについても話しているように、色は一番最初にユーザーが見るもの。New Balanceのコンセプトデザイン担当者によると、70%から90%のプロダクトに対しての無意識の判断は色で決まる。文化も色で思い出す人も多い。アメリカのNBAチームだと緑はBoston Celtics、黄色と紫はLos Angeles Lakers。大学だとエンジ色はハーバード大学や早稲田大学。ブランドとしては自分の色をどれだけ認知してもらうかは、ロゴの認知度よりも今後重要になってくるかもしれない。特にデジタル空間をデザインしたり、デジタルスキンを作る際にはロゴはそこまで見えなかったり、より現実味のない体験を作れる世の中になるとブランドは色合いで世界観をより表現できるようになる。ー宮武