#72 需要低下だけでないウルトラファストデリバリー苦境の原因
低価格デジタルファッションの可能性?、GucciのRoblox展開の進化、Shopify Editions 2022気になった機能は?
🥣 Briefing
需要低下だけでないウルトラファストデリバリー苦境の原因
『Forbes』や『Business insider』など、メディア各社で取り上げられているウルトラファストデリバリーの現状について今週は取り上げたい。ウルトラファストデリバリーとは、数千種類の日用品や食料品を、通称ダークストアと呼ばれる自社倉庫から消費者の元へたったの15分ほどで配達する、その名の通り超高速配達を武器としている業態のこと。
巣ごもり需要で人気を伸ばしていたデリバリー業だが、物価高騰に伴い全業界的に厳しい経済状況にある昨今、明るい話題が聞かれない。今年3月には、Fridge No MoreとBuykという高速配達スタートアップ二社がやむなく倒産。ボストンのJokrは南アメリカにエリアを縮小し、最大手GoPuffも同月に3%の従業員を解雇、5月には稼働率の低い一部倉庫の閉鎖を行っている。
これら要因として単純な需要低下も大きいが、収益モデルが持続的でないとの指摘も多い。『Quartz』の記事に詳しいが、現状高速配達の注文のほとんどが、新規獲得を目的としたキャンペーン的な割引価格で利用されている。つまり、実際のコストを加味した、企業的には本当は払ってほしい通常価格で利用している消費者が非常に少ないのだ。フードデリバリーにおいて認知獲得のためにこうした割引キャンペーンを打つのは一般的であるから、一概に悪手とは言えないが、不況によって投資家からの出資が期待できない今、初期段階にあるデリバリー企業の多くが割引コストを補填できず採算が合わなくなっている。
初期のウルトラファストデリバリーは、プロモーションのために自転車操業的な立ち回りになってしまいがち。しかし、たらればでしかないが、彼らも今のような不景気でなければ、黒字化するまで調達資金でつなげたかもしれない。ロジックだけではうまくいかないビジネスの難しい一面を垣間見た。
低価格デジタルファッションの可能性?
『BoF』によるとMetaは今月、バレンシア、プラダ、トム ブラウンのデジタルスキンの販売を開始。同社の新しいMeta Avatars Storeで1着8.99ドルで購入できる。Metaのマーク・ザッカーバーグとファッション・パートナーシップ担当ディレクターのエヴァ・チェンが先週金曜日にこの動きを発表したとき、多くの人が議論した。
ラグジュアリーのトップブランドは、ファッションやアクセサリーだけでなく、化粧品のような低価格で量の多いカテゴリーにまで商品を広げ、オートクチュールを頂点に、既製服、革製品、眼鏡、香水、化粧品へと広がる商品のピラミッドを形成し、数十億ドルのグローバルビジネスを構築してきた。10万ドルのクチュールガウンは一般の人には手が届かないが、その分、高級感や品質の高さを印象づけ、口紅などの低価格帯の商品を数百万人の消費者に販売し、高い利幅を稼ぐことができる。加えて、近年ではストリートウェアを商品ピラミッドに加え、若い消費者へのアピールによって成果を上げている。ここでキーとなるのは、この商品ピラミッドの中でデジタルスキンがどの位置付けになるかということ。デジタルスキンやNFTのような資産は、創造性とデジタルクラフトマンシップに彩られたものであり、顧客の心をつかむ可能性を秘めている反面まだまだ未知な要素も多い。
懸念点は、デジタルスキンを大量に販売することで何千万人もの人たちが、そのバーチャル・ルックを身につけたとして、ラグジュアリーブランドは魅力的なのかと思ってもらえるかどうか。ソーシャルメディアと同じように、顧客データの管理をMetaのようなプラットフォームに委ねることは、ブランドにとって意味があるのかというところ。
今や、デジタルグッズのチャンスは広告以上であるというコンセンサスが高まっている。ただ、ラグジュアリーのビジネスモデルのどこに当てはまるのかは、各ブランド色んな視点からやり方を模索している最中。最終的には、ラグジュアリーブランドはより幅広いデジタルグッズを開発するかもしれない。
🎙 Podcast
Shopify Editions 2022気になった機能は?、Gopuffの解雇やJokr事業縮小、ウルトラファストデリバリーについて考える
今回は、100種類以上の新しいプロダクトを発表したグローバルプロダクトリリース「Shopify Editions 2022」で気になった機能、そしてニュースレターでもご紹介しているウルトラファストデリバリーについて課題は何か、今後どうなるのか?ディスカッションしました。
✏️ View
GucciのRoblox展開の進化
Gucciはどのラグジュアリーブランドよりもゲームやバーチャル世界に対して前向きに動いている。2021年5月に一時的なRobloxでポップアップ体験を出したあと、ZEPETO、どうぶつの森、Simsなどでもバーチャルアイテムや体験をローンチした。そして直近ではRobloxに常時体験「Gucci Town」を出した。ビンテージバッグのデジタルバージョンの購入をするためにGucciが開発したミニゲームや宝探しゲームに参加しないといけない。そして徐々にGucci Townの体験は進化するようになっている。Gucciはさらに年末あたりにWeb3メタバースプラットフォームThe Sandboxでもバーチャル空間をローンチする予定。Gucci CEOのマルコ・ビッザーリ氏は「Web3はただデジタルスニーカーを売るためのものと思う人は可能性を見過ごしている」と語る。初めてデジタル上で本当のコレクタブルの概念が作る可能性を感じるからこそ、GucciはRobloxや様々なプラットフォームで積極的に体験を作っている。
Editor's View
過去にVansのRobloxバーチャル空間を説明したときに、ブランドは後にRobloxや自社開発したバーチャル空間を一時的なものではなく、Facebookページのように常に進化し続ける、ユーザーとのコミュニケーションツールとして活用すると言ったが、GucciはまさにそのようにRobloxを扱い始めている。Zepeto、The Sandbox、Robloxなどいろんなプラットフォームで取り組みをしているのはそれぞれのプラットフォームのコアユーザーの好みを理解するためだったり、どう言うプラットフォームが最もGucciらしいことができるかを検証できるから。そして早めに体験を提供するとよりユーザーが印象付くのを知っているからスピード感を持って動いている。結局1年後にどこかのブランドがRoblox体験を出しても、そのときには何十社もブランドが体験を提供しているので、選ばれない可能性がある。Chipotleが次世代SNSアプリBeRealでキャンペーンを行なったように、新しいチャネルほど競争が少ないので成功しやすく、同時に単価が安く、失敗しても気づかれないことが多い。ー宮武